2025/1/9

フォト刺繍 結局何が難しいのか

フォト刺繍考察シリーズ

精研の樋口です。2025年になりましたが、昨年同様今年もフォト刺繍頑張ります。
去年の夏以降、立て続けに制作依頼が入ったこともあり、「光を糸で表現する」というテーマで作品展開が進みませんでした。
光の反射で織りなす様々な光景を刺繍で表現したらどうなるのかというのが、私がフォト刺繍を作り続ける最大の関心事でして、表現したいものは沢山あるのですが中々作る時間を確保できません。
しかし、去年は依頼製作をやって、あらためてフォト刺繍について気づいた事もあったので、久しぶりに書いてみようと思い立ちました。

12色で作ったシマちゃんのフォト刺繍。編集に以下1ヶ月以上かかった。
12色で作ったシマちゃんのフォト刺繍。編集に以下1ヶ月以上かかった。

そもそも論になってしまいますが・・・

フォト刺繍の難しさは糸の色をどう合わせるのか。これに尽きると言えます。データ作成の時点でどんなに上手く糸色の構成ができたとしても、実際の刺繍になった時に色が合ってなければとても残念な結果になってしまいます。
理由はいくつかありますが、デジタルで表示されている画像の色と実際の糸の色がマッチしていないことが一番大きい理由ではないでしょうか。
「色に合う糸がない!」
とお客様からもお聞きすることがありますが、それは以前の私が社内で叫んでいたのと全く同じで、そもそも画面表示されている糸と全く同じ色の糸はありません。

糸の色が同じにしか見えない!

ほとんど同じように見えるこれらの糸もよく見れば違いが分かってくる。
ほとんど同じように見えるこれらの糸もよく見れば違いが分かってくる。

ところで、皆さんは刺繍をする時どのように糸の色を決めているのでしょうか?
B to Bの場合だと、デザイナーさんが糸の色を決めていたり、指示書に使用する糸は記載されているのであまり気にしないかも知れませんね。また、B to Cの場合でも自社で使用する糸は決められる場合が多いと思うので、本来刺繍糸って沢山の種類が必要なんだろうかと疑問に思う方もいるかも知れません。
しかし、私のフォト刺繍の場合は糸色の種類はできるだけ多い方が良いです。
例えば、上記の画像はとても似ている色合いの糸になります。真ん中の糸はやや色が濃く見えますが、左右両端に並んでいる糸は見比べてもほとんど同じ色にしか見えません。ほとんどわずかな差しかありませんね。しかし、このわずかな差がフォト刺繍のクオリティの良し悪しを左右します。

糸はどんな淡い色でも主張する!

それから、フォト刺繍を作り続けてきて経験として感じているのは、「糸は思っている以上に主張する」ということです。
フォト刺繍のデータは淡い色から濃い色に作られていきます。淡い色から濃い色にグラデーションさせているのです。しかし、いろいろ作っていると、この色構成がチグハグにっている場合があります。

画像の赤丸部分のように、2色目がグレーなのですが、このままのグレーと同じ糸を選んで刺繍してしまうと、最後までこのグレーが目立ってしまう場合があります。淡い色の中に突然濃い色が混ざっている場合は注意が必要です。風景などでは大きな影響は出ないかも知れませんが、人物のフォト刺繍場合は特に注意が必要です。
さて、この刺繍データのケースで私はどのように糸を選ぶのか。
1色目は白。2色目は限りなく白に近いグレーを選択します。

同じ系統の色はすべてグラデーションさせる

さて、糸を選ぶ時に、それぞれの色をピックアップしていき、後は刺繍機で刺繍するだけで完成・・・とはなりません。例えば、ある風景をフォト刺繍にすると仮定します。その風景には空が広がっています。この空の色合いを糸で表現するのですが、刺繍データの各色を見て糸を選んでいるだけで綺麗な仕上がりになるのでしょうか。

背割堤の桜(2019作) 空の移り変わりに違和感を感じない
背割堤の桜(2019作) 空の移り変わりに違和感を感じない
HIGHWAY SUNSET  空の移り変わりが目立つ。段々になっている
HIGHWAY SUNSET  空の移り変わりが目立つ。段々になっている

上の画像は私の作品、「背割堤の桜」と「HIGHWAY SUNSET」です。どちらも空の部分が刺繍されていますが、左と右を比較すると、右のHIGHWAY SUNSETは色の段差が目立ちます。一方、左の背割堤の桜は糸の移り変わりに切れ目を感じません。
このように、糸でグラデーションさせる場合、それぞれの部位ごとに糸を選ぶ必要があるとはいえ、前後する糸との調和を考慮して選ぶ必要があります。
私は背割堤の桜を作ったことで、このことを実感することになったのですが、1年後に作ったHIGHWAY SUNSETでは背割堤の桜ほど上手くグラデーションできているとはいえません。

まとめ

フォト刺繍は結局何が難しいのかというテーマで書いてきましたが、如何だったでしょうか?実は糸の色を合わせるのが難しいのは作者のセンス以前に技術的な問題も大きいと私は考えています。私は糸の色の問題を克服するためにできるだけ多くのフォト刺繍を作りました。ですから今自分の作ったフォト刺繍に満足がいかなくても作っていく間に気づく事も多いです。フォト刺繍のクオリティを向上させるためには糸の色選択はとても重要ですが、他にも同じくらい重要なことがあります。
そのことについてもいずれ書いてみようと思っています。

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